実務と研究の連動と分野横断的な交流を~「都市をたたむ」研究の遅れ~ -荒川区役所 長野博一さんインタビュー

September 26, 2016

 人口減少時代の日本社会を検討する際には何が必要なのでしょうか。その一つに異なる世代の意見を融合させ、悲観的になるだけではなく希望ある未来づくりへと導くこと。そして公民学など部署間の分野横断的な議論と実務と研究の融合も必要でしょう。例えば高度経済成長やバブル期の右肩上がりの時代の世代と、バブル期以降の経済低迷期の世代との価値観が驚くほどに違います。また一つの部署のみでは検討しきれないことや個別に進めると不経済だったり非効率だったりします。そのため研究と実務との融合を図る人材や分野横断的なプランナーの存在が今後ますます必要となってきそうです。

 そこで今回は1978年生まれの東京都の荒川区役所勤務の長野博一さんをご紹介します。長野さんは民間経験者で、さらにはライフスタイル、交通、都市、子育て、福祉などの研究者で、大学で若手育成を行う教育者でもあり、その公民学での分野横断的な経験に裏打ちされ、中長期的な社会変化を見据えた高い志による精力的な活動に対して、30~40代の都市や交通の若手研究者の人材不足が懸念される中で、注目が高まっています。多忙なスケジュールにもかかわらず、なんと7歳、3歳、0歳の3人の娘の父でもあります。

 

 

 

公民学の横断的な経歴とそれを支える原点は「事をなすに極端を想像す」

 私を突き動かす原点は、福澤諭吉先生の「事をなすに極端を想像す」という思想から影響されており、私の気質・本質を構成する思想と言えます。多少極端な考え方や着眼点があるからこそ、社会は発展し、技術も進歩すると考えています。失敗を恐れずどんどんチャレンジすることで、見えることがたくさんあるように思います。

 日本大学理工学部で学んだ後に民間不動産業を経て、2005年より荒川区役所に勤務し、これまで道路公園課、都市計画課、交通対策課、施設管理課などに携わってきました。都市・地域・福祉まちづくりなどの分野を専門としていて、移動制約者の交通や子育てバリアフリーなど、地元住民の方々の生活に密着した施策の検討を行なっています。そこで実務と研究を融合するかたちで、社会人で博士課程へ進学し、学位を取得しました。土木学会、日本建築学会、日本福祉のまちづくり学会、日本地域政策学会等に所属し、「子ども連れ世帯の保育送迎時に着目した移動負担要因に関する研究」、「非閉じこもり高齢者の身体的健康感、公共交通機関の利用状況、街づくりへの要望の関連性」、「密集市街地整備における短期的整備プログラムの評価に関する研究」などの研究論文を執筆しながら、実務への展開方法を常に考えています。

 2014年からは、行政職員と研究者に加え、国土交通大学校専門課程、東京家政学院大学現代生活学部、東洋大学ライフデザイン学部で講師として教鞭を執っています。

 

実務と研究の連動性とその若手の人材育成

 区役所という現場では実務と研究の連動性が極めて重要と感じています。しかし実際にはこの両面をこなせる人材は限りなくゼロに等しい状況にあります。教育者となった理由はここにあります。実務と研究、そして分野横断的な視点をもち、人々の多様化するライフスタイルとニーズを敏感に感じ取り、柔軟な発想と瞬発力のある人材の育成が急務で、その人材育成には実務経験者が携わることが必要不可欠だと考えています。

 都市をたたむ時代をどう乗り越えていくかという高度な課題には、これまで通りのやり方や小手先だけの対処では到底太刀打ちできません。ちょっとそれはどうかと思われることをやってちょうど良いくらいなのかもしれません。我が国の社会では、失敗に寛容でない風潮が漂っていますが、これから迎える少子化・高齢化時代を力強く生き抜けるよう、チャレンジ精神旺盛な若手を育てたいと考えています。

 

「都市・交通・人」を結ぶ必要性

 公民学という分野横断的な世界に身を投じたからこそ、分断されていたものが点から線へ、そして面へと私の活動は広がりを見せています。競争原理の働く民間からその真逆とも言える公務員組織への転換は、新たなチャレンジ精神を目覚めさせてくれたきっかけとも言えます。気づきとして、当たり前ですが「都市・交通・人」を結ぶという事を、多角的に見つめていかないといけない、と危機感を募らせています。

 研究において「住民参加と合意形成」「都市・地域計画」「子育て支援と福祉・バリアフリー」「高齢者の健康感」「防災・減災」などの面から進めていますが、私は分野横断的な研究を目指し、個別テーマを横断的につないでいくことで、これからの時代のインクルーシブな都市づくり、および共生社会の在り方などを見出すことができると考えています。私の研究テーマでは、「人々の生活と習慣」をスタート地点に据えるところから始まるため、ある部分ではかなり深く入り込み、またある部分では横断的に総論をベースに各論へ問題提起してゆくカタチをとる事が多く、必ずと言っていいほど、一つの分野だけでは根拠を示せない状況に出くわします。実務との連動を考えると、毎度頭を悩ませることになりますが、それが問題の気づきにも繋がっています。

 昨年立ち上げた特別研究委員会(日本福祉のまちづくり学会 住民参画・社会環境特別研究委員会)では、若手の研究者・実務者で委員を構成しています(都市計画・交通計画・農村計画・作業療法学・建築計画・社会科学等の専門家で構成)。住民参加と合意形成論のほか、障害理解や社会づくりという視点から研究し、人口減少時代における都市・地域のプランニングをどうするか、学会外からオーソリティの先生をお招きして研究会を行なっています。学会内では、テーマを絞り込みすぎない委員会として少々異端なチームなのかもしれません。この委員会でも常々議論していますが、やはり各分野の専門家の共通認識の中に「都市・交通・人」を結ばないとダメだ、とうことが各場面で出てきます。しかしながらハードの街づくりと道路建設や大量輸送の時代が長く続いたため、都市・交通・人は日本においては個別に検討されている現状にあります。逃げずにパッケージで検討することがもっと必要なのだと感じています。結局のところ、都市は人が暮らし・働き・憩い・移動するわけですから。

 

日本における「都市をたたむ」研究の遅れ

 現在、全国で人口減少時代を迎えるにあたり、持続可能なまちづくりを目指して地域を問わず「都市をたたむ」または「縮小・縮退・コンパクト化」などと題して検討が進められています。一方で「空き家問題」も大きな難題であり、これまでの都市計画の歴史からも俯瞰して見てみる事が必要であると考えています。コンパクトシティということでは、国土交通省が音頭を取り、コンパクトプラスネットワークを目指す都市において、立地適正化計画と地域公共交通網形成計画を策定する自治体が増加傾向にあります。

 しかしながら、立地適正化の実態としては補助金目当ての形骸的な計画づくりに終始する危険性もあり、計画の質としての格差が相当出てくることが予測されています。計画策定プロセスを含め、評価できる仕組みづくりが必要ですが、日本においてはまだまだこれからの研究領域と言えます。そこで、同じように人口減少時代における都市計画への問題認識をお持ちである東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻の村山顕人先生と勉強会(先生の講義の一環として「輪講」形式にしてくれました)を立ち上げ、議論をスタートさせています。これからの時代を担う若手研究者が参加しており、毎度刺激的な議論が展開されています。ここでの議論や検討した内容は、今後何かしらのカタチで情報発信できればと考えています。

 今後に向けて、今最も足りていないのは、分野横断的な「人的ネットワーク」なのだと感じます。異分野・他分野だからこそ、新しい考え方や新領域創生という「事を成す」ことに繋がるのではないか、期待が持てるように思います。都市を畳む技術を求めるプランナー・コーディネーターの育成も急務です。実務・研究・教育の連動と合わせて、次の世代にいいカタチでバトンを渡せるよう、未来を見据えた都市の姿を近くに感じられるかが重要だと思います。

 

 

 

◇プロフィール◇

長野博一/1978年生まれ

2005年4月より現職。国土交通大学校講師、東洋大学ライフデザイン学部非常勤講師、東京家政学院大学現代生活学部非常勤講師

博士(工学)/専門:都市計画・合意形成論・交通政策・福祉のまちづくり、コミュニティデザインなど

著書:福祉のまちづくりの検証(彰国社) 他

学術活動:日本福祉のまちづくり学会 住民参画・社会環境特別研究委員会委員長、同学会関東甲信越支部役員など

国土交通省主催のセミナー・地方自治体主催のシンポジウムにおける講演、専門家主催の勉強会講師など、年間複数件の講演・講師活動も行なう

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