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自動運転で暮らしはどう変わるのか?~自動走行ビジネス検討会座長の鎌田実教授に聞く~

                                       2016/10/10

 自動運転とは何か。自動運転といってもレベルは4つある。安全運転支援のレベル1(加速、操縦、ブレーキのいずれかを行う)。準自動走行のレベル2(加速、操縦、ブレーキの複数をシステムが行うが、必要に応じてドライバーが操作する)、レベル3(加速、操縦、ブレーキのすべてをシステムが行う)。完全自動走行のレベル4(ドライバーがまったく関与しない)。一括りにすると誤解を招きやすい。

 これまで高速道路の走行が中心であったが、これから国の検討が一般道へと移る。自動運転車が走るようになると暮らしや社会はどうなるのか。自動運転に関する世界的な動きが活発化するなか、情報が飛び交いどの情報をどう理解すれば良いのか。そんな人も多いのではないだろうか。そこで自動走行ビジネス検討会将来ビジョン検討WG座長を務める東京大学大学院新領域創成科学研究科の鎌田実教授に伺った。

自動運転の技術開発の歴史

1950年代から研究開発ははじまった

 歴史について名城大学理工学部教授の津川定之氏が国際交通安全学会誌に「自動運転システムの展望」でまとめていらっしゃいます。すでに1950年代から自動車の自動運転システムの開発が行われてきました。アメリカ、イギリス、ドイツ。そして日本も遅れることなく1960年代前半に機械技術研究所(現産業技術総合研究所)で研究が行われており、1967年にはテストコースで100km/hで走行しています。当時はパソコンもなく処理速度が非常に遅かったので、大変だったかと思います。

 1990年代になると路面に磁気マーカーを埋めて乗用車を走らせる研究が行われるようになります。日本では1996年に開通前の上信越高速道路の小諸付近で、磁気マーカー列を用いた路車協調型の自動運転道路システムのデモが行われました。

2000年に入ると事故防止が優先に バスとトラックで実用化に向けた動きも

 しかし2000年に入ると自動運転(Automated Highway System Project自動運転道路プロジェクト)よりも事故防止が優先されるようになり、大学などの研究機関では研究が進められますが国のプロジェクトとしてはひと段落します。このころから乗用車ではなく実用化を目指してトラック、路線バス、小型低速の車両を対象とした研究開発も行われるようになります。路線バスは定められたルートを走行するため、乗用車やトラックとは異なりルートが限定されていて、道路側の設備が大きくならないので合理的だからです。トヨタ自動車は2005年の「愛・地球博」で中量輸送システムとして90年代以降に開発した「IMTS (Intelligent Multimode Transit System)を運用しました。一般道では手動運転で、専用道では路面に埋め込んだ磁気マーカー列を用いて隊列の自動運転を行うデュアルモードバスです。同社は東富士に専用コースも作って開発を行い、淡路島での実用化もなされました。

 実用化に向けた研究開発はトラックでも行われるようになります。2005年頃からドイツ、アメリカで大型トラックの自動隊列走行の研究が行われました。日本でも2008年からエネルギーITSプロジェクトで燃費向上目的にトラックの自動隊列走行システムを取り上げ、2011年には3台の25トントラックで速度80km/h、車間距離10mを走行しました。しかし車間距離が10mもあればその間に割り込んでくる乗用車もあることが想定されます。そこで経済産業省では2016年から車間距離4mに設定し電子連結で走行させる研究を行おうとしています。

実用化に向けたコストとの戦い

 Googleに自動運転システムは、それまでの自動車メーカー等の取組みのように道路インフラ整備に頼るのではなく、自動車の屋根に360度のレーザーセンサーを付けて地図の位置情報などのビックデータを活用して〝クルマをかしこく”自律走行させる考え方のものです。ドライバー、ハンドルもペダルも要らないというイメージが先行しますが、実証実験レベルでは実はそういう訳ではなく、ウィーン協定やジェネーブ条約に基づいてドライバー、ハンドル、ペダルは必須とされているため、それらに代わるものが必ずついています。高価なセンサを使い、大量のデータを自動車が処理する必要があり、その自動車の価格は今の市販車の10台くらいの値段になるようなシステム構成になっています。研究開発ならよいのですが、通信データや携帯電話がつながらないところでは使えませんし、3Dダイナミックマップを用意するのにも細街路まで対象にすると20年くらいかかってしまい、肝心の過疎地域での実用がなかなか実現しないという問題があります。

大きなギャップ 社会ニーズは過疎地域のドライバー不足や高齢者ドライバーの事故防止

 日本の自動車メーカーは交通環境が複雑ではない高速道路での自動運転に力を入れています。社会ニーズから見ると過疎地域のドライバー不足や高齢者ドライバーの事故防止が課題なのですが、社会のニーズと今の研究開発に大きなギャップがあります。

 この社会のニーズに答えようとITを使ったビジネスを狙うDeNAは過疎地域での無人運転を考えています。ワンボックスとZMPの技術を使ったロボットタクシーやフランスのEZ10を使ったシャトルバスで他社の技術の組み合わせにより、レベル4の完全自動運転を目指しています。フランスのボルドーでイージーマイル社がEZ10を走らせているので、視察に行ってきたのですが、40km/hを目指すとしていますが現状は専用レーンを15km/hくらいで走らせていました。お金をかければそれなりに使えるといったところでしょう。コミュニティバス、路線バス、タクシーに代わるシステムに育つまでは時間がかかりそうです。

社会に劇的な変化をもたらす 社会システム全体をどうするかの検討が必要

 実社会での活用の課題に対する検討はまだまだこれからです。例えば経産省のプロジェクトで豊田通商等はトラック隊列で3~5台の電子連結の研究開発を行っていますが、それでは隊列をどこで組むのか、しかも隊列を組めば50mにもなるのでそれが現状の高速道路で現実的なのか、サービスエリアから本線への合流はどうするのか。また、警察では道路交通法の検討をドライバーありのレベル2まで行って実証実験ガイドラインを公表しましたが、今後無人のシャトルを扱うと、遠隔操作をドライバーありとみなすのか。遠隔操作であれ人が一人つかないといけないものでは、究極の目的である人件費の削減につながりません。このように仕事の仕方やインフラ整備まで総合的に検討する必要があります。

 完全自動運転が実現すれば劇的な変化を社会にもたらすことでしょう。道路空間の配分、人々の移動の仕方など、街並みや暮らしぶり働き方などがずいぶん変わってしまう可能性があります。問題はその変化に対してどのようなことを検討しどのように対応していかないといけないかという備えが大切です。自動車産業が国の基幹産業である日本では、社会インフラを50~100年のオーダーで検討し、パッケージ輸出するとったことを目指す等現状のビジネスモデルからの転換が必要となるでしょう。そのためにも無人島やある地域を限定するなどで完全自動運転のみが走る環境を作り、社会システム全体的をどう組み替えたり新しく作っていくかといった検討が必要だと考えています。また自動車メーカーのみならず、多様なステークホルダーの当事者意識がなければいけません。

完全自動運転が一般道を走る姿が一般的になるまであと30年?

使える技術の活用と、技術とニーズの橋渡しがポイント

 過疎地域でのドライバー確保や高齢者のラストワンマイルの問題にたいする解決策の検討が求められています。しかしこれまで説明してきたように現状では完全自動運転が一般道を走れるようになり、普及が進むまでにはあと30年くらいかかるとみています。完全自動運転が実現し、子供から高齢者まで誰もが自由に移動できる社会が実現するまで、当面は、技術開発を進めていくとともに、一方で使える技術の活用と、技術とニーズの橋渡しがポイントとなります。例えば、セニアカーやゴルフカートといったパーソナルモビリティの活用です。ゴルフカートはゴルフ場で自動運転が実用化されています。公道を走らせるには道路運送車両法に適合させるためにライトやワイパーなどをつけ保安基準を満たすことで、時速19km/h以下での緩和により軽自動車ナンバーの交付が可能になります。そういったものの活用が輪島市などで始まっています。ラストワンマイルの自動運転も、セニアカークラスの6km/hであれば、実現は早いかもしれません。色々な取り組みを期待しています。

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