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ヒトの心を動かすパーソナルモビリティ ~本田技術研究所 矢口忠博氏~

2017/02/07

ヒトの心を動かすパーソナルモビリティ

~「移動」の先にある“リアルな発見・ドラマ”を感じるための、人、モノコト、風景に出逢いに行く価値をデザインする~

本田技術研究所 4輪R&Dセンターデザイン室 Future Product Creation 矢口 忠博氏

 東京モーターショー2015に発表された本田技術研究所のWANDER WALKER CONCEPT 。それはただ単なる電動車いすではない。ある一人のデザイナーが熊本の生活者、社会問題と向き合った軌跡だった。そして当たり前だけれども、忘れがちになっていることを気づかせてくれる。

 WANDER WALKER CONCEPTのデザ イナーは4輪R&Dセンターデザイン室Future Product Creationの矢口忠博氏。矢口氏が深く電動車いすの世界にのめり込むようになったのは、ある事象がきっかけだ。国立社会保障・人口問題研 究所によると、日本の高齢化率は韓国、 フランス、アメリカなどの先進国よりも 急激に増加することが予測されているのにも関わらず、ハンドル形電動車いすの出荷台数は交通バリアフリー法や介護保 険制度が施行された2000年を境に大き く減少に転じ、社会に受け入れられてい ない事実を目の当たりにしたことにあった。(出典:電動車いす安全普及協会)

その現状を打破するため着目するよう になったことは、”電動車いすによる移動とQOL向上の相関関係を定量的に実 証すること”。EV・PHEV構想を展開する熊本県を実証実験地とし、2010年 10月~2013年まで、電動カート部会 (日本赤十字社、熊本大学、医療法人寿 量会、本田技研研究所)で、サービス付 き高齢者住宅などに入居している高齢者対象にQOL評価を行った。使った電動車いすはモンパルだ。

           出典:自動車技術会2016春季フォーラム講演資料

日本では電動車いすは運動機会を奪 い、機能低下要因となるのではと誤解されやすいのが現状だ。しかし実証実験を 通してモニターのあることに変化が生ま ることが確認された。”心“が動いたのだ。あるモニターの男性は、モンパルの 操作に慣れると、自分の行きたいところ へ行ける喜びからか、雨の日も晴れの日 も外出を楽しんだ。医療法人大浦会の担 当者は「たった1台のモンパルが外出意 欲を引き出し、生活を一変させてくれた ことにとても感謝しています」と話す。 また日本赤十字社熊本健康管理センター および医療法人寿量会の担当者も「加齢 に伴い生活圏が狭小化してきたとき、移動を保障するツールがあることで活動性 を担保できる。そして社会生活機能を維 持する有用なツールである」とコメント している。

 このQOLと電動車いすでの移動の相関関係を定量化する実証を通し、パーソ ナルモビリティのデザインについて矢口氏は次のように語っている。「デザイン をする際にこれまで忘れかけていたこと は現場と向き合うこと。モビリティ単体 をデザインすることばかりになりがちだが、「移動」の先にある“リアルな発見・ ドラマ”を感じるために、人、モノコ ト、風景に出逢いに行く価値をデザイ ンすることなのではないだろうか。生活者・来街者にとって出会いが楽しい 「未来のまちなか」を創りたい」と。

       東京モーターショー2015で発表されたWANDER WALKER CONCEPT

 「未来のまちなか」を走るWANDER WALKERには生活者とモビリティと 社会をつなぐインダーフェース・デザイン視点が散りばめられている。ラン ドスケープデザインのキーワードを用いたことも特徴だ。さらに昇降時しやすいようにシートが回転したり、その場で旋回できるようにFFインホイール2モーターを使用するなど、やさ しさもぎゅっと凝縮されている。 海外では電動車いすに乗り楽しそうに外出する生活者をあちこちで見かける。日本でもWANDER WALKERで外出している人たちをあちこちで見かけ るようになるのもそう遠くはないのではないだろうか。

(記事・写真=モビリティジャーナリスト 楠田悦子)

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